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「『旅の時間』の印象」内海惟人


 吉田健一というすぐに思い浮かぶのは「英語が出来る人」。それと『シェイクスピア』や『英国の近代文学』といった、自分の頭で外国文学を読めて理解することができる人が書いた本の著者という認識を持っていた。


 彼の小説は、金井美恵子松浦寿輝などに影響を与えているということからもわかるように、「洋モノ」派の教祖として、ハイソな教養人向けの小説を書いている印象があってあまりよいイメージをもっていなかった。


 文庫版『旅の時間』の解説もそうした「洋モノ」派の一人の清水徹が書いているが、これがまた死ぬほどあたりまえのことしか書いていない(帯を見よ)。彼らの感性に近すぎて違和感が浮かんでこないからか。


 ともかくこれを読んで「旅」とか「時間」とか「酒」とかについて語ろうとすると結局、その切れ端のようなものしかつかめない。


 物語の表面に捕らわれて、吉田健一の旅や酒にまつわる体験が綴られていると勘違いしがちであるが、当然彼自身はそう思ってもらっても一向にかまわなかっただろうが、話はそう簡単ではない。


 だいたいこの小説のなかにでてくる会話が、現実に酒をがぶがぶ飲んでいる男たちのする類のものでないことくらい、容易に想像がつくであろう。バーなどでバーテンなどと気取って会話をしているのがいるが、吉田健一はそうした連中とは無縁であることは、それこそ彼の食や酒にまつわるエッセイを読めばわかる。彼はもっと素直に楽しんでいる。


 『旅の時間』には。けっして現実にはありえない時の過ごし方がリアリズムによって描かれ、それが非日常的な印象を与えている。この面白くもなんともない結論しか言うことがないのだが、小難しい理屈をひねくり回さずに、ただ純粋にこの手の小説が好きな人が大勢いるのではないか。そう思うと楽しくなるのであった。