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吉田健一『怪奇な話』

怪奇な話 (中公文庫 A 50-6)

怪奇な話 (中公文庫 A 50-6)

 半年ほど放っておいた吉田健一『怪奇な話』の「化けもの屋敷」を読んだのだが、これはヨシケンのなかでもかなりの傑作ではないか。

 短編だからか、ヨシケンお得意の食い物談義(「旨い酒は水に近い味がする」…とか実にどうでもいい話)も、説教じみた文明批評もなく、ただヨシケンのエッセンスを素直に味わえる。

 すごいのは、この小説が「畢竟、人間も化けものも違いはない」というメッセージを孕んでいるところ。しかも「(違いがないから)いい」のでも、「(違いがないから)悪い」のでもなく、ただ「違いはない」。それだけ。

 「化けもの」が何かのメタファーというわけでもない。いや、何のメタファーでもないということは、逆説的にすべてのメタファーでありうるということかもしれない。

 「化けもの」とは丸ごと「世界(現実)」のことであり、結局ヨシケンの小説はいつも「私と世界の距離」についての小説なのだと思うのである。