吉田健一『怪奇な話』
- 作者: 吉田健一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1982/08/10
- メディア: 文庫
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
半年ほど放っておいた吉田健一『怪奇な話』の「化けもの屋敷」を読んだのだが、これはヨシケンのなかでもかなりの傑作ではないか。
短編だからか、ヨシケンお得意の食い物談義(「旨い酒は水に近い味がする」…とか実にどうでもいい話)も、説教じみた文明批評もなく、ただヨシケンのエッセンスを素直に味わえる。
すごいのは、この小説が「畢竟、人間も化けものも違いはない」というメッセージを孕んでいるところ。しかも「(違いがないから)いい」のでも、「(違いがないから)悪い」のでもなく、ただ「違いはない」。それだけ。
「化けもの」が何かのメタファーというわけでもない。いや、何のメタファーでもないということは、逆説的にすべてのメタファーでありうるということかもしれない。
「化けもの」とは丸ごと「世界(現実)」のことであり、結局ヨシケンの小説はいつも「私と世界の距離」についての小説なのだと思うのである。