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吉田健一『本当のような話』

本当のような話 (講談社文芸文庫)

本当のような話 (講談社文芸文庫)

 高田馬場ブックオフにて、集英社文庫版が200円だったので買っておく。

 これは僕が初めて読んだヨシケンの小説である(5、6年まえだったか)。 
 この小説の冒頭は、イタロ・カルヴィーノの『冬の夜ひとりの旅人が』ぐらい人を喰っている。

朝になって女が目を覚して床を出る。その辺から話を始めてもいい訳である。(中略)この女の名前が民子というのだったことにする。別に理由があることではなくて、そのことで序に言うならばこの話そのものが何の表向きの根拠もなしにただ頭に浮んだものなので従ってこれは或は本当のことを書いているのかも知れない。尤も本当ということの意味も色々ある。

 これを書いている人は、別に酔っ払っているわけではない。

 まるでポストモダン小説のような始まりだが、ヨシケンは小説の起源に忠実なだけである。
 そしてここから延々と民子という金持ちの未亡人の、静かで悠々とした生活が綴られていく。

 ヨシケンの小説に思想があるかどうかは分からない。しかしスタイルはある(初期の村上春樹の小説のように)。
 文体は廻りくどく、とっつきは悪いが、いつもテーマは「よく生きるには」という、とてもシンプルなことだ。だから、若い人にもっと読まれてもいいと思う。