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コさん(仮称)「友人をめぐる物語」


 実は、海外小説はちょっと苦手だ。横文字に弱いのと、海外物に特有の皮肉や反語的な言い回しに、今ひとつなじめないのだ。そういうわけで、オースターも恥ずかしながら今回が初めて(もしかして爆弾発言?)。すごい作家らしいが、自分に魅力が理解できるかどうか、不安を抱きつつ読み始めた。


 結論を言うと、おもしろかった。ふつう、物語に引き込まれるまでは少し我慢が必要なことが多いのだが、この小説は最初の一行からすんなり物語に入れて、そのまま最後まで一気に読めた。ただ、あくまでも娯楽小説としてさらっと軽く読めてしまう感じであって、文章や描写が美しいとか、胸を打たれる場面があるとか、そういうものではなかったように思う。


 さて、この小説は「アイデンティティ」が重要なテーマとなっているのだが、その問題は私の手には負えなさそうなので、そっ…としておく。なのでここでは、「どうでもいいかもしれないが気になったこと」を書いてみる。


 まず思ったのは、「どこかで読んだことのある話だな」ということだ。そういえば、と思い出したのは、レイモンド・チャンドラー『ザ・ロング・グッバイ』、そして村上春樹羊をめぐる冒険』。似ていると感じたのは、「友人が行方不明になる→友人を探す→最後に友人と再会するが、すぐに別れが訪れる」という筋立てだ。三作とも、筋としてはとても似ているように私には感じられるが、これには何か他に古典的原典があるのだろうか。順番としては、チャンドラー→村上→オースターだが。それとも、こういう設定はありふれたもので、取り立てて注目することでもないのか。(本書の前に読んだ池澤夏樹スティル・ライフ』とも、やや類似性を感じた。こちらは話の筋は全然違っていて、謎めいた友人について主人公が語る、というスタイルが似ているだけだが。こういうスタイルの小説は、けっこうあるのかもしれない。)


 それと気になったのは、ファンショーの小説だ。やたらとすばらしいものであることがほのめかされるので、とてもそそられるのだが、その文章は一行も出てこない(手紙は出てくるが)。もしかして、「今君が読んでいるこの小説が、そのすばらしい小説である」ということなのだろうか。?。


 さて、いろいろ文句も言ったが、ひさびさに思わず読みふけってしまう作品であったことは確かだ。『シティ・オヴ・グラス』もおもしろかったので、次はニューヨーク三部作の残りの一作『幽霊たち』を読もうと思う。あと、もちろん白水Uブックス『最後の物たちの国で』もね。