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「アンソロジーは美味しい」南野うらら

 
 短編小説のアンソロジー美味しいですね。カラーの違う短編で飽きないし、一定のクオリティを保証されている安心感もあっておトク。収録されている14の短編はどれも読み応えがありますが、私が特に気に入ったのは「くだんのはは」(小松左京)と「二ノ橋 柳亭」(神吉拓郎)でした。


 「くだんのはは」は終戦直後の日本を舞台とした一種のホラーですが、不思議と透明感があっていい。空襲で家が焼かれたり、どんどん人が死んでいるのに悲壮感がない乾いた会話がリアルです。主人公である中学生の僕が工場(勤労動員)で、家が全焼したことを報告しても「みんな別に同情したような顔もしなかった」。「『弱ったよ』と父は僕の顔を見て言った。『今度突然うちの工場の疎開の指揮をすることになったんだ。――責任者が空襲で死によって……。』」そんなリアルさのなかに違和感なく入り込んでくるファンタジー要素=「決して見てはいけない」母屋の二階、毎夜聞こえてくる少女の啜り泣き……。


 「くだん」はもちろん「九段」(靖国神社)とのかけたシャレなのですが……本当に繊細で美しいお話!(ラストの5行がなければ) そういえば小松左京はイタリア文学科卒だそうで、そういわれるとなんだかこのノリはカルヴィーノっぽい! 


 「二ノ橋 柳亭」はひたすらぐっときました。このセンス最高。〝幻想〟的な要素はまったくないのですが……泣けます。「ただ冷笑するほかはない。人生には、時として、そんな場合がある」。この一文自体を抜き出すと陳腐ですが、お話のなかでは「そ、そうだよなあ! それが大人の苦しみってもんだなあ!!」と納得しました。神吉拓郎ってノーチェックでしたが、これで株があがりましたね。


 さて、反対にちょっと不満が残ったのは安部公房の「人魚伝」。人魚とのロマンス話なのかなと思っていましたが「僕」はどうやら人魚をまったく愛していないようです。世評の高い江戸川乱歩の「押絵と旅する男」は気持ち悪すぎる。笹沢佐保の「老人の予言」はオチがオチになってない。芥川龍之介の「魔術」は絵に書いたようなオチがかえって面白くない(でもミスラくんにキャラ萌え)。


 Ⅱも読んでみたいと思いましたね。よい体験でした。