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吉田健一にまつわるエトセトラ「U研編集委員による言いたい放談」①

■登場人物

会長:松浦アヤヲ。U研の会長。子煩悩。
南野:南野うらら。編集委員冬コミの原稿落とす。
辻夏:辻夏悟。編集委員。体の至るところが不調。

辻夏:昨日、今度の読書会のために『旅の時間』を読みなおしてみたら、なかなか面白かったんです。じつは最初に読んだとき、いくつかの長篇より落ちるかな? という気がしていたんですけど。
南野:最近、本を読んでないので、ヨシケンの読書会は、ひたすら楽しみですよ。まだ「飛行機の中」しか読んでないけど、あれも面白いよね。
辻夏:「飛行機の中」、いいですねえ。ジャンル分け不可能な、まさに吉田健一としかいいようのない小説。二重三重のしかけがあって、一筋縄ではいかないです。さて、ここ数日、「なぜ今『吉田健一』なのか」ということが気になってます。
南野:はあ。
辻夏:残念ながら、雑誌『ユリイカ』の吉田健一特集号(06年10月号)では、その答えは得られませんでした…。昨年の『文藝』に掲載された高橋源一郎氏と内田樹氏の対談で、源ちゃんが「これ以上、この貴族的な世界に浸っていたらヤバイ」と思って、ヨシケンを読まなくなった…と言っているそうですね(未確認情報)。浅田彰氏もヨシケンのことを「貴族的」と書いています(参考リンク:http://www.kojinkaratani.com/criticalspace/old/special/asada/i001219a.html)。しかし、吉田健一が貴族ならば、我々もまたある種の「貴族」ではないでしょうか。だからこそ、彼に惹かれるのではないか、という気がしています。
南野:そうですね。それはね、私が近衛文麿を好きな理由ともだぶります。だって、戦前の庶民なんて(学ばなければ)共感できないけど、戦前の華族ブルジョワのインテリ坊ちゃんだったら、そんなにかけ離れていないと思います。繊細でお人よしで贅沢で美味しいものがすきで自分探し(笑)してたりして…、今の私たちと、たいして変わらないと感じます。かえって、陸軍の貧しい若者のルサンチマンは、理解を絶します。
辻夏:なるほど。
南野:しかし、かんがえるに、貴族の定義は、むずかしいとも思います。もともと日本にはないものだし、戦前の華族も基盤がゆるい。独自の文化といえるものもそんなにない。財閥に親族を送り込んだ華族、あるいは西園寺家や近衛のように政治(宮中)に結びついた場合には、特殊な力を持つ場合もあるけれども。吉田茂も別に貴族とは言えない。
辻夏:あ、そうなんですか。
南野:外交官の家だから、そりゃ普通の人から見れば上流階級だろうけれども。でも、白洲正子(樺山伯爵の娘)からすればヨシケンって目下の存在なんでしょ?(よく知らないが)。だから、われわれが「貴族」というと誤解があるかもしれない。てきとうに余暇があって、住居はせまくても、食うにこまらぬ大衆、という程度のことかなあ。ヨシケン自身も、教養は貴族的なんだろうけど、貴族ではないと思うし、三島の死に対するコメント(参考リンク:http://osaka.nipponkaigi.com/touko/からしても、そのことには自覚的なんだろうねぇ。
辻夏:ところで会長、どうしたんですか。今日はあまり喋りませんね。
松浦:……………おで、むかし、ヨシケンの『金沢』読んだ。………ヨシケン、ぜんぜん面白くなし! あんなものは、ただの貴族の文学なり! 今度の読書会で、白黒はっきりつけるため、近所の図書館にあるヨシケンの本は全て借りるつもり。 で、辻君に聞きたいんだけど、君は、本当に、ヨシケンが好きなのか?(次回に続く)