2006年ベスト10(ノンジャンル) 松浦綾夫
- アーティスト: MOONRIDERS,鈴木博文,鈴木慶一,糸井重里,白井良明,かしぶち哲郎,井上奈緒,ムーンライダーズ
- 出版社/メーカー: SPACE SHOWER MUSIC
- 発売日: 2006/10/25
- メディア: CD
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U研会長のアヤヲくんが選んだ10選が、カナダから届きました。
かつて本人は言った。「僕はブログ向きじゃない」。
1.白水Uブックスフェア〜文学フリマ「白水Uブックス超入門」
2.批評空間〜理論から感想へ
3.最後の「巨匠」〜木下順二死す
4.諸物の原質へ〜アルベルト・ジャコメッティ展
5.マイナー文学のために〜李箱
6.マイナー文学のためにⅡ〜金鶴泳
7.今さらなんですが…クレヨンしんちゃん
8.これも今さらですが…〜サン・テクジュペリ「星の王子様」
9.つげ義春日記
10.ムーンライダーズ30周年
1.白水Uブックスフェア〜文学フリマ「白水Uブックス超入門」
啓文堂書店・吉祥寺店でのU研プロデュースのブックフェアから白水社編集部の方との読書会、さらには白水社訪問取材を経て、第5回文学フリマでの「白水Uブックス超入門」の刊行まで…長年リスペクトしてきた出版社・白水社さんと「やっと会えたね。」な夢のような一年でした。感謝。いやー、文学ってほんとにすばらしい。
2.批評空間〜理論から感想へ
今年読んだ批評集の中で荒川洋治「文芸時評という感想」(四月社)、福間健二「詩は生きている」(五柳書院)の2冊はいずれも理論中心の文芸批評ではなく、作品を味読し、感想を述べる、という至極まっとうなスタイルの評論集。これを批評の退行と見るか、読み手(いずれも詩人)の眼力で読ませる批評と見るのか。古くて新しいムーブメント。
3.最後の「巨匠」〜木下順二死す
劇団民藝の「審判〜神と人とのあいだ 第1部」を観劇した。東京裁判の法廷を再現したドラマだが、舞台はあまりおもしろくなかった。表現として古い、という気がした。どっこい、原作の戯曲はすごい。いまだ新鮮な戦争文学の傑作だと思う。「夕鶴」も「子午線の祀り」も「巨匠」も木下作品はどれもいい。常に舞台よりも戯曲の方が。最後まで本物だった。
4.諸物の原質へ〜アルベルト・ジャコメッティ展
ほとんど観れなかった展覧会のなかでジャコメッティ展(鎌倉県立近代美術館・葉山館)は印象に残っている。どこまでも垂直軸にのびる薄っぺらな人体彫刻。物を削ぎ、ひきのばすこと。そこに生まれる時間と物質の対話。芸術家がもののかたちを生みおとすことの不思議が、観る者の生きる時間に語りかけてきた。タブローもたくさんあって珍しかった。
5.マイナー文学のために〜李箱
永らく作品の存在は知りながら読んでこなかった李箱の小説を「朝鮮短編小説集」(岩波文庫)で読む。「翼」なんてすごくおもしろい。シュールでカフカみたいな小説が戦前のアジアで書かれていたなんて…と思っていたら、作品社から全集のような分厚い本が出て、びっくり。
6.マイナー文学のためにⅡ〜金鶴泳
「凍える口」につづき、「金鶴泳作品集」の2巻目として刊行された「土の悲しみ」(クレイン)。私小説と在日文学の極北がクロスした傑作こそ、遺作であり、表題作である。人はなぜ生きるのか。文学の本源に立ち還らせてくれる。早稲田大学での金鶴泳シンポジウムも聴講したが、パネリストの一人・坂上弘は当日の様子を金鶴泳への想いをこめて「薄暮」という短編にして発表した(「群像」10月号)。これも私小説の系譜。
7.今さらなんですが…クレヨンしんちゃん
今年観たアニメのDVDでは、後追いですみませんが、「クレヨンしんちゃん/嵐を呼ぶ戦国合戦」が一番だった(古い)。評判通りのよい作品。日本の合戦史を家族愛の面から見つめなおしたテーマに、農村の美しさを描写した絵が重なり泣けました。故・杉浦日向子へのオマージュも泣かせます。
8.これも今さらですが…〜サン・テクジュペリ「星の王子様」
なぜか会社帰りに本屋で買った「星の王子様」。未読だった。近年、著作権の関係で翻訳が一斉に出たが、私のは新潮文庫版。読後、なぜかとても豊かな気持ちになった…それはなぜかというと、作者にはきっと伝えたいことがあったから、としかいえない。うごかしがたい、いい作品。
9.つげ義春日記
つげ義春の漫画も著作もほとんど全部読んでいる。この本は昭和50年代に講談社から出したもの。長く探していたが、ようやく古本屋で偶然出会った(偶然、というところが大事)。子供が生まれたり、奥さんが病気になったり、旧作が文庫ブームで再版になり大金が舞いこんだり…しかしどこを切っても俗塵にまみれないつげの強靭な作家精神が見られる。昔の旅日記も読み返した。新作はもう書かないのだろうか。
10.ムーンライダーズ30周年
この10年、ムーンライダーズの音楽を、のべどれほど聴いただろうか。今年は日比谷野外音楽堂、渋谷公会堂のライブのいずれにも足を運んだが、特に渋公のライブはすさまじかった。老成などというものではなく、前衛を内包しながら、音がどんどんよくなっている。新譜のできばえも本当にすばらしい。若手とのセッションを重ね、時代の先鋭と交わり、音が変化するのだろう。そして、なにより歌詞だ。私はムーンライダーズの音楽を詩として、思想として、時代と切り結ぶ文学として聴いている気がするのだ。ジョアン・ジルベルトの東京公演もよかったのだが、今の私にはこちらが印象にのこった。