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U研メンバーが選ぶ戦争文学3選(2)

俺がJBだ!―ジェームズ・ブラウン自叙伝 (文春文庫)

俺がJBだ!―ジェームズ・ブラウン自叙伝 (文春文庫)


U研随一のJB(JUN・BUNGAKU)狂、松浦“ゴッドファーザー・オブ・ソウル”アヤヲ会長の3選。

戦争を描いた日本文学3選



1)『桜島』 梅崎春生ISBN:4061960474
2)『野火』 大岡昇平ISBN:4003112318
3)『祭りの場』 林京子ISBN:4061960237

桜島の噴煙をのぞむ港町・坊津で主人公は軍務についている。敵軍の上陸を迎えうつ準備を整えるなか、戦局は悪化し、死への予感がひた寄せる。

この作品では蝉すだくなか敵機に射撃された兵卒の遺骸、方耳の娼婦との一夜の交歓など、人とモノとのあわいをぬうフェティッシュな感覚が、生と死の二極を詩的に形象している。

物語は主人公と叩きあげの鬼上官との対立が中心になる。終戦を迎えた残照の桜島を背景に、ならんで歩くふたりが点景となり…あらそいは無化され、戦争も対立も自然へと昇華される。

「ボロ家の春秋」はじめ、一貫して<隣人>のいる風景を描いた梅崎の、人間と人間との根深い関係性への問題意識は、遺作の「幻化」まで鳴り響くテーマとなる。講談社文芸文庫で読める。

2敗色濃いフィリピン諸島の戦線で、飢餓状態がうちつづく部隊にいる「私」。惨憺たる戦場で死にゆく仲間たちを見つめ、敗走をつづけるなか目撃した「猿狩り」とよばれる行為の正体とは……。

人肉食の問題や戦場の倫理を問う作品では、武田泰淳ひかりごけ」、遠藤周作「海と毒薬」、森村誠一悪魔の飽食」なども印象深いが、極限状況下での<罪>の意識を問う、これほど衝撃的な作品をほかに知らない。新潮文庫で入手可能。

3<原爆文学>と呼ばれる小説が気にかかり、読んできた。原民喜「夏の花」、井伏鱒二「黒い雨」、井上光晴「明日」などである。

祭りの場」は作家自身が体験した長崎の被爆体験をつづっている。視点人物(女学生だった林京子自身)のまなざしが無垢だからなのか、次々に死んでゆく級友たちが「あ、ほんとうに死んでいる」と思わせるリアルさでせまってくる。しずかな死のはかなさを読み手に淡々と語りかけてくる―それがそのまま死んだ仲間への追悼になっているかのようだ。わたしが読んだ<原爆文学>のなかで、いちばん悲しみ深い、まっすぐな作品である。

本作は『群像』誌に投稿、しばらくして掲載され、芥川賞をとったが、受賞のあいさつは史上最も短い「ありがとう。」の一言であった……と当時の編集長からきいた。講談社文芸文庫所収。

これでも改行しているんだけれど、ネットだと重すぎる文体だよ。