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「ヒューマン・ファクター」を読んだあなたへの10の質問状 松浦綾

質問1
 「ヒューマン・ファクター」という作品名に、もし邦題をつけるとしたら、あなたはなんと訳しますか。

質問2
 主人公のカッスルの生き方をどう思いますか。あなたは共感できますか。それとも「もっとうまくやればいいのに」と思いますか。

質問3
 英国人カッスルは南アフリカ出身の奥さんセイラ、自分の子ではないが息子のサムと仲良く暮らしています。つまり自分以外の家族は二人とも黒人です。カッスルはセイラと恋愛し赴任先からセイラを亡命させました。1978年の発表当時、白人と南アフリカ人の恋人という設定はリアリティーがあったと思いますか。また、現在ならどうですか。

質問4
 あっけなく死んでしまうカッスルの相棒、にくめない青年デイヴィス。彼のあまりにあまりな死に方をあなたはどう思いますか。自分がデイヴィスだったとして、死ぬ瞬間、人生をふりかえってなんと思ったか、吹きだしを埋めてください。「        」。

質問5
 カッスルに拳銃で撃たれて死んでしまう愛犬ブラー。とてもかわいそうですね。カッスルはなぜブラーを自分の手で撃ったと思いますか。このシーンにあなたは納得できましたか。

質問6
 この小説では主人公のカッセルや奥さんのセイラ以外の、敵対する人物たちの対話や人物関係も緻密に描かれています。三人称のいわば「神の視点」で書かれているため、読者にはわかっても、登場人物のお互いがお互いの会話をうかがい知ることはできません。それにしてもカッスルの上司や敵対者たちの会話文が多すぎはしませんか。でも、なぜ? このことはこの小説にどんな効果をもたらしていると思いましたか。

質問7
 カッスルはどうしてイギリスの二重スパイになったと思いますか。一面的な理由は奥さんを保護する際受けた恩を返すため、となっていますが、はたしてそれだけでしょうか。また、あなたはイギリス人であるカッスルが人種差別に怒り、祖国と距離感を持ち始めた心情を理解できますか。

質問8
 ロシアに渡った後のカッスルは生彩がありません。あまりに悲惨です。このあと、カッスルはどんな人生を過ごしたと思いますか。

質問9
 夫がロシアに渡ったあとのセイラ夫人はカッスルにその後会えたと思いますか。また息子のサムは海外に出るのがむつかしいと書かれていますが、カッスルに再会できたと思いますか。息子がいなくなったカッスルのお母さんの心情についてもあわせて聞かせてください。

質問10
 「ヒューマン・ファクター」は最初、口あたりよく読め、会話もテンポよく読み進めますが、二重スパイの実行者がカッスルだとわかる後半から重苦しい内容になり、無情なラストへつづきます。それは大きな覇権を争う国家同士の争いに巻き込まれて生きざるを得ない現代人の閉塞感・出口なしの状態を感じさせます。が、そんな読み解きだけでは釈然としない作者の内的な執筆動機が感じられます。…グレアム・グリーンはなぜこのような小説を書いたと思いますか。また、スパイ小説に仮託して、もっと大きなメタファーがあるのであれば、それがなにか教えてください。戦時中、情報活動に従事した作者の体験、カトリックの文学者としての本質とからめて話ができるようなら、その線でもお願いします。また、冷戦構造がなくなった現在の世界情勢のなかでも、この小説のもつ力は有効だと思いますか。

今回はこのようなことをみなさんとの討議のなかから浮かび上がらせて、「ヒューマン・ファクター」と作者グリーンの本質に迫りたい、と考えています。よろしくお願いします。

以上