内海惟人「佐藤泰志『海炭市叙景』論」
「海炭市」という架空の名前の街の情景を舞台に、人々の生活が幾分ドラマ的に、しかしが淡々と綴られていく。佐藤泰志の小説の世界というのは、今回初めて触れたわけだが、決して意外なものではなく、どこかで聞いたような懐かしさがある。それは地方都市のありふれた風景というより、それが普遍的な生活の根があるからだといったら、ありきたりの賛辞であろうか。
小説技法としてはなかなか面倒なやり方だと思う。何度かの区切りの後に、作者の意図がわかってくるので、大きな物語を期待せずにただ、登場人物の内面を「叙景」するのをたどっていけばよい。読者に飽きさせず最後まで辿りつかせるのはなかなか難しいだろう。
個人的には、描写のうち話者の内面が多くを占めていることが、この作品を通俗小説っぽく見せているように思えるのであるが、もちろんそれが悪いわけではない。この小説家があまり評価を受けてこなかった理由がもしあるのであれば知りたいと思う。