山中恒『おへそに太陽を』粗編集2
★辻夏悟
エロの壁(←特に意味はない)
今回U研メンバーの殆どがレポートで、本作品について、エロだ!、エロだ!、脳内革命だ!と書いているが、やっぱり児童向けの読み物では、エロはとても重要。
自分も小学生男子の頃は、脳内の50%がエロのこと、残りの50%は「キン肉マンの素顔って?」という疑問で占められていたことを懐かしく思い出した。
美少女がいきなりチュウしてきたり、日常生活の中でパンツがチラリと見えたり、小学生男子は、思いがけないエロが大好きだ。
そして、私も。(←坪内祐三氏風言い回し)
余談だが、小学生男子にとって、今年の紅白のDJ OZMAのボディスーツは最高の「落とし玉」になったことだろう。
これら日常生活に暴力的に侵入した「現実界」は、やがて小学生男子の心に「全裸では特に反応しないが、チラリズムでは大興奮する」という、深刻なトラウマを残す。悲しいことに、30を過ぎた大人になっても直らない。
少なくとも、私は。(祐三風)
その一方、小学生男子は、男女交際などのリアルなエロ(?)に触れると、逆に照れてしまい、アチチだ!アチチだ!という、また極端な抵抗を示す。「アベック」や「カップル」という言葉を聞いただけで、耳をふさぎたくなるものだ。
このアンビヴァレンツな、狂おしい想いを、本作は見事に掬い取っているように思われる。
そもそも『おへそに太陽を』というタイトル、これも何かの性的なメタフォアではあるまいか?
おへそ(のあたり)に、太陽(豊穣の象徴か?)を…。
…
なお、この作品は、1968年という歴史的激動の年に雑誌「小説女学生コース」に「青春がいっぱい」というタイトルで連載され、校内暴力の嵐が吹き荒ぶ1983年に大幅に加筆されて現在のタイトルで再発表された。
超ライトノベル『おヘソに太陽を』〜萌え感想
勉強になった。いやマジで。あの、これ、本当に少女向けですかね? なんだか今どきの男性向けのライトノベルの味わいがするよ。素直クールな女王様(里美ちゃん)と素直クール下僕(ヘソ)萌え? てか無駄にエロなのはなぜなの? ヘソが思春期を迎えていない精神年齢小学生だから何も発展しないけど、マジやばいっしょ。女の子から押し倒している上にパンツ見せてるよ? しかも学校で!!(中学校で!!) 剣道部の先輩・三村信乃おねいさまも決闘の上に気絶してパンツ見せだし。あーのーさー。どういうこと? 作者は絶対楽しんで書いているよねー。
ま、結論から言うと、エンターテイメントとしてはよく出来ていると思う。特にいいと思ったのは以下の点。
①主人公(理美)の「動機」のつくりこみが巧い。おばあちゃんの占いと笑撃の死から理美がヘソに会うまで30ページ使ってる。ここで聖クローディア学院受験の顛末&「女の子として生まれたこと」…父との葛藤、まで入っている。ここで成功しているために、後のとんでもない展開が自然に流れるようになった。
②雑魚キャラまでキャラづくりがちゃんとしてある。たとえば西谷登という先生。この先生が三村信乃によこしまな妄想を抱いているところなど細かいけど裏設定がよく書けている。手ぇ、抜いてないよ。
③家のローン、セクハラ、聖クローディア学院にあっさり入学して里見を捨てる親友など、現実の世界の世知辛さがぶち込まれている。序盤でおばあちゃんがほんとに死ぬあたり度肝を抜かれた。
次はひっかかった点。
①現在の目から見てPC的にどーか表現がいくつか。犬をガスレンジに入れるという話はジョークとしてもマズいのではないかしらと思いました(動物虐待!)。ホモホモ、と性的嗜好を誹謗中傷するときに使うのも超やばくないかい(人権侵害!)。ヘソの故郷が田舎で、「クマのように薄汚れたやつ」とかいうのもどうかと…(地方への偏見助長!)
②里美ちゃんと三村信乃の行動が大胆すぎ。里美は動機(お父さんへの復讐)があるからまだいいけど、三村さんのキスは男性作者の願望まるだしでちょっとイヤ!
③ヘソの設定が苦しいぞ。忍者ってなんやねん。(校内暴力に対抗するための設定ということ?)それに「顔のつくりはまずいけど」っていうのもあんまり強調しすぎるのもどうなのかー。
古さと新しさが混じったライトノベルでした。しかし、これは手直しして漫画化でもすれば今でも通用しそうな気もしますね。テンポがよくてミステリーがある、これライトノベルの王道ね。個人的には途中から高橋留美子の絵で思い浮かべていました。里美はあかねです。設定は三村さんの方があかねっぽいけど、存在論的に彼女はあかねです。ハルヒも似てますけど。というかハルヒのほうが上品だっつーの、って位のぶっとびキャラなんだけど。あとわりにお父さん(さみしい戦中派)がチャーミング。そしてこの山中氏はとっても左翼系の人なのね。エロで左翼ですか。新鮮。戦後の香り。恋と革命ならぬ、エロと革命。WAR IS OVER!