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「オースターの3原色」月立 晶


 「幽霊たち」を100点とした場合、75点。


 「太陽は過去であり、地球は現在であり、月は未来である」。これは『ムーン・パレス』の中で、中華料理屋のクッキーに書かれていた言葉だ。それぞれ色にたとえると、太陽は“赤”、地球は“青”、月は“白か黄”…あたりが自然だろう。これは、ニューヨーク三部作の一つ『幽霊たち』の登場人物が、ブルー、ブラック、ホワイトと名付けられていることと無関係ではないように思われる。クッキーに書かれなかった“ブラック”も、作中でブルーが膨大な手書き原稿のほかに何もないブラック! の部屋を評する言葉「こんなのは人生とは呼べない、これじゃ無人地帯だ、世界の果てで行き着く場所だ」からは、全 $B$Fの天体と時間の果てにある“虚無”――誕生以前あるいは終焉後のカラーを意味しているという解釈も成り立つ。


 過去を表す“太陽=レッド”は、『ガラスの街』と『鍵のかかった部屋』で“赤いノートブック”として登場するが、前者においては、主人公である探偵小説家が追跡を依頼された失踪者について書き残した記録であり、後者では、失踪者であるファンショーが追跡者である僕に書き残した文章となっている。三部作にはいずれも、追跡者から! 失踪者への転換が描かれているが、赤いノートを軸に1作目と3作目で同様の転換が見られるのは興味深い。また、どちらも“作家”によって書かれているが、『ガラスの街』においては赤いノートを残して主人公が消失してしまうのに対して、『鍵のかかった部屋』ではノートは破棄され主人公が$! B;Dる。これは、「書き終えられた過去」から「未だ書かれざる未来」へと踏み出そうとするオースター自身の決意の表れだろうか。


 余談だが、『幽霊たち』のラスト、「私は一人密かに! 夢想する。ブルーがどこかの港で船の切符を買い、中国 へ発つ姿を…」は、村上春樹の『風の歌を聴け』のラストシーンや『中国行きのスロウ・ボート』を連想させる。オースター作品において、C f9q=赤=膨大な過去(書かれた歴史)…とするのは、あまりにもこじつけが過ぎるだろうか。