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アヤヲ怪鳥の2007年ベスト10


U研CEO、アヤヲ会長の2007年「私の前を通り過ぎていった文化たち」ベスト10です。

2007年 私のベスト10(松浦綾夫) ※順不同

1)『佐藤泰志作品集』(クレイン)の発刊

永らく入手困難だった佐藤泰志の小説集がベストな形で出版された。新聞、雑誌等でかなりの反響もあった。U研で「海炭市叙景」の読書会までできた。今年一年で一番うれしい出来事だった。

2)U研読書会〜中上健次「青い朝顔」を読む

今年は「魂の一冊シリーズ」と銘打ち、毎回キュレーターが自分にとって大切な一作を推薦しあって読んだ。月立晶氏の回で中上健次の生前未発表作「青い朝顔」をやった。これにはうなった。中上はかなり読みこんだつもりだったが…デュシャンの「大ガラス」のように、没後にぴたりときまる、欠けたパズルの1ピースを用意してくれていた。大ピース。

3)山田芳裕へうげもの』(講談社、1〜5巻)

茶道の世界に興味があった。お稽古事の茶道じゃなくて、利休の時代、戦場で茶を点てた時代の。古田織部の半生を描いたこの漫画、はじめは眉唾もので読んだ。が、見事な傑作だった。戦国時代がロックに描かれていた。静なる茶道を、命のやりとりが日常の乱世の動ある美へ投げこんだ。歴史物では岩明均の『ヒストリエ』(講談社、1〜4巻)もよかったが、次点にしたい。

4)高橋源一郎『ニッポンの小説』(文芸春秋

「文学界」にまだ連載中の、架空講義のかたちを借りた、小説形式の文学論。めちゃくちゃおもしろく、深遠だ。今、なんらかのかたちで小説や批評を書こうとしている人には必読ではないか。そのうえで、自分になにができるか考えると、道を誤らなくてすむ、と言っては言い過ぎか。現代文学の大きなハードルを用意してくれた。

5)真山青果の戯曲作品

大塩平八郎」、「元禄忠臣蔵」、「平将門」。どれもみなもと太郎の『風雲児たち』のようにおもしろい。歴史戯曲のエンタティメント性とドストエフスキーのような観念的な対話の奥に人間ドラマが光る。もっと読まれていい。

6)小田実中流の復興』(生活人新書、NHK出版)

著者の遺作。小田実の仕事に今までふれてこなかったのだが…今の時代、行動することは本当に無力なのか。論理でなく、草の根でも実行に移すことは意味のないことなのか。この本には戦後、折目正しいアクティヴィストとして闘い抜いた作者の絶唱がある。巻末付録の某国政治圧殺の記録にはあぜん。マジかよ。だからというわけではないが、年末、ムーンライダーズがライブ(渋谷クラブクアトロ)の最後においた反戦歌「ヤッホーヤッホーナンマイダ」は甘すぎて響いてこなかった。

7)『ヨコハマメリー』(中村高寛監督、2006年作品)

このドキュメンタリー映画の劇場公開は昨年だったが、偶然テレビで観た。厚塗りの白化粧にドレス姿という特異な姿で、横浜の街に立ち続けた街娼「メリーさん」。関係者への丁寧なインタビューから、伝説の実像と同時代史を浮きあがらせる。これほど一個の人間と地誌、知己の結ばれ、をまっすぐ誠実にとらえようとしたフィルムはあまりない。若い監督のまなざしに感心した。

8)鈴木理策「熊野・雪・桜」展(東京都写真美術館・恵比寿)

木村伊兵衛賞を受賞した折に写真集を見た時はなんとも思わなかった。が、今年は展示方法と相まってやられました。真っ暗闇のなか仄光る熊野の風景写真(展示室1)から那智の火祭り(通路)を通ると、一気に白一色の部屋へ(展示室2)。そこはいちめん雪と桜だけの…あっと驚く視覚体験と、死から生への跳躍、説明できない美しさ…。別の会場で観た、セザンヌのモチーフ、サント・ヴィクトワール山を写した連作もいい。物質と現象。

9)清里北澤美術館&清里現代美術館

いずれも夏場に常設展示を観た。北澤は夕立ちに降りこめられ、雨の降る音を聴きながら、アール・ヌーボーのコレクションを観ていたら、ドガやガレの水そのもののガラスの器に浮き彫りになった魚や昆虫が光に溶け出し動きはじめ…そんな幻を見るほど、めったにない、いい状態で観れた。現代美術館は館長自らが来館者に個人美術館としての役割を熱く語る珍しい所でして(笑)…ヨーゼフ・ボイスフルクサスの作品がある。ボイスといえば、菅原教夫『ボイスから始まる』(五柳書院、2004年)を読んだが、シンプルでとてもよかった。ボイスは大切な作家だ。

10)「日本彫刻の近代」展(東京国立近代美術館・竹橋)

日本現代美術のねじれを「六本木クロッシング」展(森美術館)で改めて感じ、フラストレーションがたまっていた。なぜこんなに退屈で隘路に入ってるんだ、と。日本の絵画の成立は、明治の洋画移入期に解を求めると、いろんなねじれがわかる。しかし彫刻は絵画みたいに鳥瞰する機会がなかったから、明治初期から昭和の後期まで流れで見れて新鮮だった。私のベスト1は高村光太郎。「柘榴」「鯰」「手」などが観れて幸いだった。

<番外>里山での稲作

都心郊外の、里山での稲作を時々手伝うようになり、2年が過ぎた。今年は家で稲の苗を育ててから田植えをし、刈り取り、脱穀、精米まで一連の作業を経験した。田んぼの周りの自然風景の代謝(樹木、花、竹林、小動物、水生昆虫)と、稲のすくすくした生育を見ていると、こういう生活だけで自足できればなあ、と真剣に考えた。はじめての農業がそれほど魅力的に映るのは、遊びでやっているからだろうか。