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伝説の作家・佐藤泰志の傑作選集刊行!

佐藤泰志作品集

佐藤泰志作品集

 U研の月立長老とアヤヲ会長が敬愛する伝説の作家・佐藤泰志

 最近出版された選集は、既に神保町の東京堂三省堂で平積みになり、フロアを熱くさせているらしい。
 というわけで、アヤヲくんより、またまた寄稿です。

「今、佐藤泰志を読むこと」


 没後17年にして復刊された『佐藤泰志作品集』(クレイン)。


 今、永らく幻の作家であった佐藤泰志を再び読むためにはどんなフラグが必要だろうか。


 生前、佐藤の評価は一部に熱心なファンがいた以外、必ずしも確かなものではなかった。


 芥川賞の5度落選に加え、全6冊ある単行本のうち、生前に刊行されたのは3冊だけ。残りはその衝撃的な死の後に出されたことを思い返してもよくわかる。


 ところが、ずっと作品を読みたい、という声はあとを経たなかったし、じつは近年になっても佐藤泰志への言及はかなりいろいろあるのだ。

岡崎武志の『読書の腕前』(光文社新書)。

 古書ハンターとして有名な岡崎の近著には、佐藤の『海炭市叙景』との出会いをきっかけに広がる作家への思慕が綴られていて、この本の白眉となっている(今回の折込冊子にも文章を寄せている)。

川本三郎の『言葉のなかに風景が立ち上がる』(新潮社)。

 これも新しい本だが、堀江敏幸丸山健二野呂邦暢らの小説にあらわれる「風景」を論じている。ここでも佐藤泰志の『海炭市叙景』に一章が割かれ、函館のことが書かれている。初出は『芸術新潮』だった。


 松村雄策といえば、坪内祐三加藤典洋がリスペクトする音楽評論家で、独特の味のある文章にファンは多い。エッセイ集『それがどうした風が吹く』(二見書房)で語られる佐藤泰志への思い入れはすさまじい。「ひとりぼっちのあいつ」。自ら佐藤の本を復刊しようとし、うまくいかなかった経緯と作品への手ばなしの絶賛が綴られている。


 他にも文芸批評家では加藤典洋川村湊、秋山駿などが佐藤泰志を高く評価していた。


 中上健次は第2回三島賞の選考会で佐藤の『そこのみにて光輝く』を選考委員のひとりとして評価しながら、その受賞には強硬に反対した。『そこのみにて…』は中上の作品にも通底する函館の「路地」的な世界が描かれている。そのせいか、作品を認める一方、愛憎相半ばに落とす口ぶりが当時の選評から伝わってきておかしい。


 最後に、佐藤の盟友であり、その死後多くの追悼文を寄せた詩人・映画監督の福間健二佐藤泰志論はやはりいい。今回の作品集でもふれれば血の出るような解説を寄せているが、毎回別の角度からその魅力を掘り起こしている。


 日本の出版界ではある程度の人気・評価をあつめる作家の本でも、亡くなればなかなか本が出ない。経済性が優先なのは重々承知だが、それにしても佐藤泰志の本が17年も出なかったのは、なぜなのだろう。


 ほんとうにふしぎなことだ(松浦アヤヲ)。

●クレイン『佐藤泰志作品集』ページ
http://www2.ttcn.ne.jp/~crane/kinkan.html