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カート・ヴォネガット死去

 中高時代、結構読んだ作家です。

 作品として好きなのは、イラストが楽しい『チャンピオンたちの朝食』なんだけど、いま読んだら「センチメンタル過ぎるぜ!」と途中で投げ出してしまうかも。

 でも、そのナイーブさがいいのだな。。。

 アメリカ文学者の佐藤良明氏が『ラバーソウルの弾み方』で書いているカート・ヴォネガットについての注釈が、時代的なバイアスがかかっていない一番妥当な彼についての評価だろうか。

こころ休まるトーンで、突拍子もない物語を、ちょっぴり悲しげなユーモアを込めて語るみんなのお気に入り。顔がよくて、人もよさそうで、一時はマーク・トウェインがそうであるような国民作家にもなりかけたが、70年代後半以降はあまり読む気をそそられない。結局「エコロジー感覚」と「シンガー・ソングライターのやさしさ」にマッチした「時代の作家」という評価で終わりそうだ。たくさん邦訳(ハヤカワ文庫)されているし、しばらくはまだ日本でも、卒論に手頃な作家としての地位を保つだろう。
(佐藤良明『ラバーソウルの弾み方』、ちくま学芸文庫、360頁)

 でも佐藤氏の意見はあくまでも「大人」(になってから)の感想であって、思春期男子にとってのヴォネガットというのは、なかなか切実に身に沁みる作家なのだった。

 ちなみに『チャンピオンたちの朝食』で印象に残っているのは次の文章。

「目をひらけ!」トラウトはいった。
「美にはぐくまれた人間が、こんなかっこうをしているか? ここには荒廃と絶望しかないと、あんたはいうのかね? わしが持ってきたのも、それとおんなじもんだ」
「わたしの目はひらいています」マイロは温かい口調でいった。
「そしてわたしは期待どおりのものを見ています。わたしが見ているのは、ひどい傷を受けた人間です――なぜなら、彼はわたしたちの見たこともないむこう側の真理の火を、大胆にもくぐり抜けたからです。そして彼はまた帰ってきました――わたしたちにむこう側の話をするために」

カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』、浅倉久志訳、ハヤカワ文庫、293頁)

 おそらく「ひどい傷を受け」、「帰ってきた」のは、カートの息子、マーク・ヴォネガットのことでもある。彼はカナダのヒッピー・コミューンで統合失調症となり、長い間発作に苦しんだ。

 なお彼の回復までの経験は『エデン特急』(みすず書房・絶版)という本にまとめられている。

 ↑白水Uブックス研究会なのに、この本を紹介するのを忘れてますた。。。(しかも実は未読)。