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松浦綾夫「魂を撃つ本ベスト5」

 今年もようやく半分以上終わってくれたので(定年まであと29年ちょっとですねー)、U研のメンバーたちに、「2006年度上半期に出会った○○○ベスト5」をノンジャンルで選んでもらいました。

 文学あり、音楽あり、着エロあり、とにかく多彩なセレクションです。本日はU研の会長からトロイの木馬ウィルス付きで送られてきたデータをアップ。


■松浦綾夫「魂を撃つ本・5選」(松浦綾夫)

 今年の上半期はあまり本を読まなかった。近頃、なにを読んでもつまらない、物憂い感じも強い。とくに最近の小説にはまったく興味がない(自分の感性の問題もある)。ま、それはそれとして、上半期ベスト5を挙げたい。

1)大川編『短編礼讃』(ちくま文庫ISBN:4480422382

 入手のむつかしい、忘れられた名作短編集。田中英光小山清渡辺温阿部昭…といったシブいラインナップがまずもってよい。とりわけ小山清田中英光の小品は、襟を正して読んだ。そうそう、これが小説なんだ、と不覚にも感動してしまう。

2)『金鶴泳作品集/土の悲しみ』(クレイン)ISBN:4906681255

 自裁した在日の作家・金鶴泳は、最近ではマイナーな存在で本もなかった。ただかねてから河出の『新鋭作家叢書』の一巻本を愛読していた。今回、金鶴泳の作品がまとまって刊行され、遺作の「土の悲しみ」を初めて読み、一種異様な感情に襲われた。これはなんだろう?

3)西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』(講談社ISBN:4062133067

 「私小説家」の亡霊ともいうべきか。落魄の末、路上死した作家・藤澤清造への愛を胸に、卒塔婆と眠り、墓の隣に自らの墓を建てる時代錯誤の主人公=西村。今どき珍しいこのド私小説芥川賞候補に。正直、私には退行に映って、いやな感じがした。しかし、このいやな感じは、なにか気にかかるいやな感じなのだ。

4)高森朝雄ちばてつやあしたのジョー』(講談社ISBN:4062607646

 力石が死ぬところまでが圧倒的によかった。あとは余話じゃないか。みなさんはジョーの物語がどうやって始まり、なにと戦ったのか、ご存じですか? 私はラーメン屋で1巻の冒頭を読んで戦後史の一断面を見た気がして、慌てて全巻読んだ。

5)リチャード・ブローティガン『西瓜糖の日々』(河出文庫ISBN:4309462308

 生も死も日常も友愛も詩も…すべて等質に、乾いた風が吹き流してゆく。高橋源一郎の『SG』(さようなら、ギャングたち)は長く私のバイブルだったが、この一作を読み、少しかすんで見えた(方法論的態度において)。『アメリカの鱒釣り』より『ビッグ・サーの南軍将軍』よりもおもしろい。完全小説だ。