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「戦場のボーイズ・ライフ 〜タイトルは本文とはあまり関係ありません〜」辻夏悟


 短い作品なので、日を変えて3回読んだ(別にid:URARIAさんに対抗しているわけではない)。


 中上健次についてはU研に詳しい人間が何人もいる。にわか勉強をしても仕方がないので、むしろ、なるべく参考文献に当たらないようにした。
 ちなみに中上の代表作『枯木灘』については、数年前に、わりと面白く読んだ記憶がある。


 「青い朝顔」は一幅の絵のような、作品である。
 硬質な切り詰めた文体で書かれている。
 ヤマやオチはない。
 読んでいて「わあ、おもしろい」という感じではない。
 私小説風といえるかもしれない。
 どうやら作者にとって、思い出深い情景が描かれているらしい。


 これは物哀しい小説である。
 貧しい家の生活を助けるために、木屑拾いをする子供たちの話なのである。
 狂犬のように兄に噛み付く弟、それを拳でぶん殴る兄、散歩に連れて行ってもらえない子犬、ズロースから覗き見える少女のパンツ、朝顔の茂みで青姦する男女…。
 この小説に出てくる情景を挙げていくと、いちいちやりきれない気持ちになる。
 私小説風に書かれているだけに、余計、痛みが強い。


 世の中には、ハードな生活のなかに潜む、大らかさ、あるいはユーモアというものを書いた小説がある。
 白水Uブックス『木登り男爵』でおなじみ、イタロ・カルヴィーノが書いた『蜘蛛の巣の小道』や、木山捷平が書いた一連の戦争小説あたりがそれに当たるだろう。
 しかし「青い朝顔」に書かれた生活は、ただハードで、物哀しい。
 それは、登場するのが子供たちだけだからだろうか。

 ここには父親の違う子供たちが、貧しさのなかで、動物のように暮らす様が描かれている。
 冒頭、2番目の姉が、弟の耳に直に口をつけて喋りかける。
 この人と人との独特の距離感、何ともいえない生々しさ。
 この小説で、子供たちは「2番目の姉」など、生まれた順番で名指される。これも、まるで動物のようである。
 木屑拾いを抜け出した弟が子犬に喋りかける場面。

「食べんのか? 食べなんだら大きならん。強ならん。強なって皆噛んだれ」
(…)
「なあ、遊びに行きたいなァ。はよ、起きよ。起きて遊んでくれ」

 ここでは、人も子犬も同一線上にある(?)。
 そして、それはやはり僕にはやりきれない。…


 僕はこの小説を完成度の高い小説であると思う。
 ひとつのアートとして完成度が高い。
 文章はかなり研磨されている。
 地べたを這いつくばるように生活する人間たちと、その傍らに咲く青い朝顔の対比。
 まるで大人のように行動しながら、それでもやはり自分にひたひたと近づいてくる「性」の世界におののく子供たちの描写。
 見事と思う。


 しかしそれが好きか嫌いかといったら、また別の話である。
 いや、嫌いとまでは言えない。
 このディープさ、ちょっと苦手だなあ、という感じなのでありました。…