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読書会を終えて(U研会長 松浦アヤヲが記す)


 以下の文章はU研会長の松浦アヤヲくんが書いたもの。

 新宿西口のドイツ料理屋で今年最初のU研。みなさん、おひさしぶり(内海さんは欠席)。


 テクストはスティーブ・エリクソンの『黒い時計の旅』。舞台がドイツだったりするので、陶製の蓋つきジョッキに入ったビールを呑み、ウインナーやアイスバインやジャガイモ料理を食べながら。


 キュレーターの奈保千佳さんの進行でブックトーク開始。


 トマス・ピンチョンが卒論だった奈保さんが言うように、我々が学生だった頃、エリクソンは当時流行りの「アヴァン・ポップ」とか「メタフィクション」を体現したスターだった。島田雅彦が翻訳したり(『ルビコン・ビーチ』)、村上龍と対談したり(『五分後の世界』と『黒い時計の旅』は設定自体が似ていなくもない)…。


 大冊だったが、さすがにみなさん読了してきた。しかも、好意的な感想が多いのは予想外だった。


 南野うららさんのように登場人物Z(総統)へ「萌え」要素を抱く伴走型の読み方や、辻夏悟くんの「エリクソンの文学を世界は愛と呼ぶんだぜ」といった読み方、実作経験の豊富な極楽寺坂みづほさんの「おそらくエリクソンはこの小説の最初の一行をなにも考えずに書き出し、書き進めながら、勢いと連想で書き終えたのではないか」といったさまざまな意見が出た。


 時空や時間をねじまげて複雑にからまりあう物語技法が似ていることから、村上春樹の諸作品(『ねじまき鳥クロニクル』や『海辺のカフカ』)と比較する声もあがった。「(受胎や再生がテーマなので)最初はフォークナーの世界なのかな、と思ったが、内実は全然ちがった」と月立晶さんが不満げにつづけた。


 私は最後までエリクソンの<幻視>小説の方法論に違和感があったが…井上靖大岡昇平の『蒼き狼』論争をふまえ、「歴史(史実)を小説として書くことはいかにして可能か」を鴎外や大岡らの歴史小説と、司馬遼太郎吉川英治らのスタンスの違いをもとに語ったところ、南野さんが「要するに<萌え>が重要なのよ!」とまとめかけたので「歴史小説が<萌え>ならくだらないじゃないですか」と切り返したところ、「くだらなくないわよ!!」と南野・極楽寺坂の両女史に反論され、店内が騒々しかったせいもあり、最後は怒鳴りあいとなった(もちろん和気藹々とですが…泣笑)。


 奇しくも極楽寺坂さんがまとめたように、エリクソンは自身の歴史観歴史認識を決めたうえで分析的に書く、というプロセスは踏んでいない。日本で現代文学のスターとして迎えられたほど、クレバーな作家ではないのではないか、というところで意見が一致した。


 そのあと、2次会は向かいの欧風レストランで。皆で赤ワインのボトルを空ける。ここは雰囲気も落ち着いていて、料理も申し分なかった。


 辻夏悟くんや南野さん、私から夏に開催される白水社さんとのUブックスフェアについて説明する。U研が推薦する図書を夏休みに都内の大型書店に陳列するという企画。

 
 全員で具体的な意見を述べあい、「我々のような私設の出版社応援団が、大好きな一冊を推薦する…これはまさに、夢のような企画だね」「U研つづけていてよかったね」「やっと会えたね」((C)辻仁成)…などと大いに気勢があがる。


 願わくは巷間の読書人を戦慄せしめるセレクションを提案したい。乞うご期待。